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晴れと雨

第4章 苦

「おかしいんですよね」

渚は腕を組みながら、菜々子を見据えた。

「ん?」

菜々子は自分の事かと自身を見直す。さしておかしいと思うところはなかった。

「どこか変?」

「貴史さんです。なんか最近変なんですよね」

菜々子は気付かれないようにため息をつく。
渚は見ているのかいないのか、菜々子の表情の変化には気付くことはなかった。

「話をしてても上の空というか…聞いていてもしんどそうというか……具合が悪いのかと思えばそうじゃないって言うし…菜々子さん聞いてます?」

今度は判りやすく大きくため息をつく。

「渚くんさ、気付いてる?渚くんの話すことって大半が鈴村さんのことなんだよ?私達デートらしいことはしてるけど、話がそればかりなんだもん。なんだか鈴村さんに嫉妬しちゃうよ」

早口に捲し立てると、菜々子は伝票を持ってレジへ向かってしまった。
言われた意味をすぐには理解出来ず、言葉を咀嚼し、飲み込んだころには菜々子が店の扉を出るところだった。

「ちょっ、ごめん、瀬川さん…俺、いつも話聞いてもらえるからつい 」

「渚くんの言いたいことも気持ちもわかるよ。だからこそ、今は私と一緒の時間を過ごす時じゃないんじゃないの?今は何をしたいのか、よく考えて」

菜々子は立ち止まることなく、ただ見放す訳でもない、いつもの優しい調子で渚に伝えた。
そこまで言われてしまい、渚は後を追いかけられずに立ち尽くしていた。

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