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晴れと雨

第5章 落

菜々子に報告がしたい。

その話を切り出したのは、夕飯も終わった頃だった。
まともに睡眠を取っていない貴史には、疲れの色が見えていた。
本当は今でなくても良かったのだが、渚はその事だけがどうにも気になってしまっていた。

「それは…誤解される覚悟があるなら伝えてもいいと思うが……彼女との関係の修復を望んでいるのならやめておいた方が賢明だな」

いつもより回転しない頭で考えても、在り来たりな答えしか出なかった。
もしここで渚が、関係修復を望んでいると言われたら回らない頭で酷いことをしてしまいそうな気さえした。

「うーん…瀬川さんに好意がないと言えば嘘になりますけど…恋愛感情じゃない気もするんですよね。嫌われてしまったらそれまでというか…よし、伝えてみます」

案外とあっさり結論を出した渚に、貴史は頭を抱えた。
渚はあの女性にも恋人と言うより家族に近い感情を抱いていたのか?いや、そもそもそれだったら嫌われたくないハズか…

「渚」

「はい?」

「おそらく…今までのお前の話からすると、彼女は所謂いい女なんだと思う。心配はいらないだろう」

貴史の言葉に、渚が怪訝な顔をする。

「貴史さん…」

「ん?」

「瀬川さんが気になるんですか?」

「…は?」

一体、貴史の先程の言葉のどこにそう解釈できる箇所があるのだろうか。
渚の不意の言葉は、貴史の動きを止めるのには充分だった。
渚は険しい表情から一転、泣きそうな顔になり、貴史との距離を詰める。

「おれ、やですからねっ、貴史さんかっこいいし、瀬川さん絶対貴史さん好きになっちゃうじゃないですかっ。なんかそんなのいやですからねっ」

「……は?なんでそうなるんだよ。俺が恋愛しないの知ってるだろ。ていうか彼女に恋愛感情ないっていったろ」

「違いますっ、そういうんじゃなくてっ。瀬川さんに貴史さん取られるみたいでいやなんですっ」

こいつの頭のなかはどうなっているんだろう。
渚の言葉は、またしても貴史の動きを止めることになった。


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