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晴れと雨

第2章 慣

「貴史さんって、物欲とかないんですか?」

夕飯時にそれとなく貴史の喜ぶものを探る。

「は?」

何の脈絡もないのその質問に、貴史の手が止まり、その様子を見て渚は慌てて付け足す。

「あ、だってここ片すときもゴミばかりで、広さの割にはそんなに物なかったし」

「…寝るだけの家だからな」

会話終了。その4文字が渚の頭に過った。
居候を始めてから会話らしい会話がなかった。それは貴史が一線ひいているから。
一緒にいる以上は、少しでも鈴村貴史という人間を知りたい。
そんな思いをもっている渚にとっては、今の距離感はどうしても耐えられなかった。

「俺…知りたいんです。貴史さんがなにを好きで、なにを考えていて、どんな人なのか」

「…あまり干渉してくれるな」

「俺にはっ…干渉してくるじゃないか」

渚の消え入りそうな声に、貴史の表情が変わることはない。
彼は大人なのだ。渚からしたらうんと。

「…ごめんなさい。偉そうに」

「別に構わない」

貴史からしたら、これは口論に入らない。
その事実が渚のなかで、じわりじわりと黒い影を落とした。

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