
彼がドSになったわけ。
第2章 8月15日更新分。
心臓が鳴ってる。
頭の中で、いろんな言い訳がうかんでは消えていく。
体が棒のようになってうまく動かせない。
もはや逃げられないことはわかっていたが、往生際の悪い私はぐるぐると思考をめぐらせていた。
「おまたせー。イチゴ味とみかん味どっちがいい」
冠木君は、いつものように部屋に入る。
夏。いつもどちらかが、近くのコンビニでアイスを買いに行くきまりだった。
今日はじゃんけんで負けた冠木君の番。
何度となく繰り返してきた行為。ゆえに彼はこっちをろくに見ずに机に荷物を置いた。
私の異常には気づいていない。
口元がいやな感じに粘つく。
自分から言って謝ったほうがいいかな。
でもこのまま黙っていたい。
どちたにせよ、ばれるのは時間の問題だった。
「あのっ、」
みょうに裏返った声がでた。
なんて言って謝ろうか。
彼は許してくれるだろうか。
「こんなの、あったんだけれど・・」
そういって彼にエロ本を見せる。
ちらっとこちらを見てから、彼は固まった。
めがねの奥の瞳孔が開いていく。
蛇を前にしたかえるは、きっとこんな気持ちだろう。
彼が今にも襲い掛かってくる気がして、体が震えた。
(ごめん、ほんと、ごめん)
口に出して言おうとして、できなかった。
急に冠木君が飛び掛ってきたからだ。
殴られる。瞬間的にそう思った。
しかし、そんなことはなく。
冠木君はその勢いで私の手からエロ本をひったくると、すごい勢いでゴミ箱に叩き込んだ。
彼のほおが赤く染まっている。
きっと私よりももっと。
「ちょっ、わっ、まじゴメンッ!!」
先に謝ったのは彼だった。
状況が理解できない。
私は「ごめん」と言おうとした口を開いたまま、馬鹿みたいに突っ立ってた。
