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フーセンガム

第57章 illumination②

(大野side)

哀「智、好きだよ」
「冬斗っ…冬斗っ」
哀「智。もう一度言うよ」

冬斗は、抱きつく僕を引き離した。

哀「早く、行きな。」

そう言って、船から僕を突き落とした。

「ふゆっ」
哀「好きだよ、智」

冬斗の声を聞くと、海水で視界が塞がれる。

「ぷはっ!」

海水から顔をあげると、ボートに引き上げられる。

船は、もう沈みかけていた。

「冬斗ー!冬斗!」

ボートから降りようとする。

櫻「智!駄目だよ!」
「嫌だ!嫌だよ!冬斗がっ、冬斗が…うっ…うわぁあ!冬斗ー!」

冬斗が死ぬなら、僕も死ぬ。

「翔ちゃん、離して。僕も死ぬ。」
櫻「駄目だよ!智まで死んだら…」
「冬斗がいない世界なんて、僕には耐えられない!冬斗が死んだ場所で一緒に死ぬんだ!」

船は、もう海の底に沈んでいった。

『好きだよ、智』

冬斗の声が、頭を離れない。
いや…離したくない。

「うっ…うわぁあ!冬斗ー!冬斗ー!ふゆ…うわぁあ!」

冬斗の声が戻ってくることは、
二度とないんだ。

悲しくて、辛くて、
泣くことしかできなかった。

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