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秘密の時間は私のもの

第30章 借し

だが、上野は全くこちらに視線は向けず


お金を入れ、淡々とコーヒーを買う作業を遂行した。


上野のそんな様子を見、徐々に冷静さを取り戻す。



俺はガキか.....



ぐしゃっと荒々しく髪を掻き


上野がコーヒーを手にした所で踵を返す。


こんなタイミングで、上野が俺に話したいなんて


要因は1つしかない。


俺が最も今触れて欲しくないそれと分かっていて


誰が大人しく話を聞こうか。



「おーい。おつりー」



それを分かっているであろう上野は、呑気にそんなことを言う。



「要らん。やる」

「はぁ?390円も貰えるかよ」



お前の話聞くのに比べたら微々たるものだ。



上野、お前はヒーローなんだろ?

人の嫌なこと、しないだろ?



こんな時にだけ大嫌いなこいつの本質を利用するが


どうやら今日のヒーローはマントを忘れたらしい。



「学生にとっての390円って貴重だぞ?
学食で唐揚げパン食えんじゃねーか」



激しくしつこい。


もうとにかく俺と話したいらしく


歩く俺の後ろをずっと喋りながら付いて来やがる。



うっっっぜぇ.....

こうなったら....



俺はピタリと止まり、くるりと上野の方を向く。


それに合わせ、上野も止まる。

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