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メビウス~無限∞回路

第4章 囚われる闇

「堕ちてきたんだよ、君は」

 降ろしてくれと騒いだ小さな身体を、壊れないように床に立たせる。
 ねんど人形は、ぽてぽてと軽い音を立てながら、少年の前を左右に歩く。

「堕ちたって何?」

 素朴な疑問を出す。ねんど人形は、首をくるくると回しながら、何かを考えているぐらいの間を持たせて呟いた。

「自分の心にさ…」

 人は生まれてから死ぬまで、光と闇を行き来する。朝と夜の来訪と同じ数――それ以上に。ねんど人形の言葉に、少年は眉間は顰めて聞いていた。

「生きていたら、仕方ないだろっ!?」
「そうだね」

 まるで答えが分かっていたように、軽く返されてしまい少年はねんど人形の足元辺りに拳を落とした。

「でも此処に居て、ボクと出会ってしまったのは事実だよ?」

 事実という言葉に、どう反論していいのか分からず。少年は唇を噛みしめて、浮かんだ涙をそのままに睨みつける。
 効果はまるでない。いや、あったとしても相手はねんど人形だ。…仕方ない。

「勘違いしているようだから言うけど。これは君が描いたボクの姿だよ」

 自分の姿を見つめながら、ねんど人形は言った。

「怖かったんだね、だから咄嗟に学校の図工で作った人形を頭に描いた……賢いね」

 その言葉は、新たな恐怖を教える。
 恐ろしげな化け物を想像していたら、どうなっていたというのか。
 首を左右に激しく振り、少年は考えないようにねんど人形をもう一度抱き上げた。

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