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メビウス~無限∞回路

第5章 闇に在る存在

 恐怖に全身が戦慄く女の目の前で奥部屋が開いた。
 それも人が開けるであろう勢いはなく、静かに音もなくゆっくりゆっくりと。
 精神を食らう恐怖を煽る。優しげに招くようにそっと…。
 一歩近づくと1㎝ほど開く奥部屋に人の影は映っていない。いや人はこれほどの闇の中で平然と出来るだろうか―――。
 女は死に物狂いの抵抗しても、男は表情ひとつ動かすことなく無機質なまま。
 奥部屋がほんの目の前にきた瞬間、それまでゆっくりと開かれていた扉は、待ちきれないと叫ぶように一気に開放された。


「いやぁああああ!!!」


 暗闇にぽつんと浮いた扉の中には、人の姿はやはり無かった。

「ーーーーっ!!!」

 悲鳴という種類は劈く音波を持っている。今、女が叫んだ声にもならない音は、確かに悲鳴という種類。
 男はその不気味な光景を見ても意に介せず、そのまま奥の部屋を潜っていく。やはり求める人の影は存在して居なかった。
 がくがくと震える四肢は既に力を失い。支える男の腕が離れれば、その場にただ崩れるだけだ。
 男は奥部屋を尚も先へ進んでいく。瞳を開けているのが怖いのに、閉じる術を失ったように女は光景を見ていた。
 自分達の後ろに人は居ないことは、何度も確認していた。


「ぃ………ぁ………たす…」


 だからこそ、今、目の前で起こっている状況に、女は力さえ失ったままの心で悲鳴を上げる。

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