メビウス~無限∞回路
第5章 闇に在る存在
誰も居ない扉が、一人静かに閉まっていく姿―――。
見たくもない光景であるのに、瞳孔が開き対象物をクローズアップしているのだ。
カタン……ッ
小さな音が耳に大きく響く。瞳の横に意識が向いていた。
女の脳裏に浮かんだのは『絶望』という二文字だけ。
男は半分以上意識を手放している女を連れて、先の見えない奥へと進んでいく。ミシッ…ミシッ…と家鳴りする音だけが、闇の中で響いていく。
男は持っていた懐中電灯を何処かへ放置したのにも関わらず、この漆黒の中を迷いもなく進んでいく。
闇に幾ら慣らされようと、深淵を歩く姿は異様でしかなかった。
奥部屋の向こうに見えた廊下の更に奥に見えた襖を、開けると、無機質だった男の瞳に生気が宿る。
手に抱いているのは愛すべき女性であること。
そして自分がいつの間に此処に来たのか―――昼間、屋敷に入り込んだ辺りで記憶がぷっつりと切れていることに気がついた。
「何故…此処に、俺が居るんだっ?!」
しかも目の前は闇に包まれていて、窓から入る薄月灯かりで視界は暗い。室内が荒れている様子も肉眼では捉えられない。
「……っ」
一瞬の気の流れ。闇に慣れない瞳を駆使し、極度の緊張が背筋を這い上がっていく。男は油断無く気配を探るが、気配を感じる場所には何もない闇だけが横たわっていた。
「気のせいか…?」
玄関へ回るよりは、この窓を潜った方が出口に近い。男は焦燥感に煽られ、普段よりも強く叩く心音に息を呑んだ。
昼間この場所へ来た時に感じた気配と同じ気配が、この部屋の何処からか感じる。ある訳がないと自らの怯えを叱責し、意識を失っている彼女を横抱きに抱え歩いた。
見たくもない光景であるのに、瞳孔が開き対象物をクローズアップしているのだ。
カタン……ッ
小さな音が耳に大きく響く。瞳の横に意識が向いていた。
女の脳裏に浮かんだのは『絶望』という二文字だけ。
男は半分以上意識を手放している女を連れて、先の見えない奥へと進んでいく。ミシッ…ミシッ…と家鳴りする音だけが、闇の中で響いていく。
男は持っていた懐中電灯を何処かへ放置したのにも関わらず、この漆黒の中を迷いもなく進んでいく。
闇に幾ら慣らされようと、深淵を歩く姿は異様でしかなかった。
奥部屋の向こうに見えた廊下の更に奥に見えた襖を、開けると、無機質だった男の瞳に生気が宿る。
手に抱いているのは愛すべき女性であること。
そして自分がいつの間に此処に来たのか―――昼間、屋敷に入り込んだ辺りで記憶がぷっつりと切れていることに気がついた。
「何故…此処に、俺が居るんだっ?!」
しかも目の前は闇に包まれていて、窓から入る薄月灯かりで視界は暗い。室内が荒れている様子も肉眼では捉えられない。
「……っ」
一瞬の気の流れ。闇に慣れない瞳を駆使し、極度の緊張が背筋を這い上がっていく。男は油断無く気配を探るが、気配を感じる場所には何もない闇だけが横たわっていた。
「気のせいか…?」
玄関へ回るよりは、この窓を潜った方が出口に近い。男は焦燥感に煽られ、普段よりも強く叩く心音に息を呑んだ。
昼間この場所へ来た時に感じた気配と同じ気配が、この部屋の何処からか感じる。ある訳がないと自らの怯えを叱責し、意識を失っている彼女を横抱きに抱え歩いた。