メビウス~無限∞回路
第8章 鳴き声(中編)
フッと真顔になっている尊に気がつく。神楽は神託を受ける時に、自我は失せるところがある。尊は今まで何度もそれを見ているので、今がそうだったと認識をしている。尊の様子に神楽も納得して立ち上がった。
「夜と黒だった」
「そうですか…どういう意味でしょうね…」
その言葉に詰まっている言葉は本来多い筈である。神楽はとりあえず頭の中でそれをしまい。とりあえず学校へ行くために鳥居を抜けていく。鳥居を全部抜けた辺りで尊の姿はスッと消えていく。神楽以外にはもう尊を認識出来るのは御霊か、神気を持つ生き物だけだ。胸に押しかかる感覚は一歩。一歩と歩くほどに大きくなる錯覚を覚える。嫌な、ーー予感が的中したと思ったのは結界へと踏み込んだ瞬間だった。
人の視界にはけして映らない結界。それは霊道と霊道が交差している場所。霊道とは字の如く霊達が歩いている道である。その先にあるのは何処か人の身ではわからない。ただ、この踏み込んだ場所は、以前から気になる霊道が通っている場所でもあった。
「螺子れている…出ますよ」
「ほっとくわけにはいかねぇだろ」
「今の天気見えてますか? …曇りですよ」
「じゃ、こうすればいい」
「ちょっ…!」
神楽が止めるより先に、尊は背中から一振りの剣を取り出す。普段は胎内収納しているらしい神の一振りである。背の低い尊を遥かに超す大振りの剣を、片手に持ち勢いよく空に向かい薙ごうと振り被った所で、神楽がその腕に抱きついた。
「何すんだよ…」
「それはこっちの台詞です。…下手に薙いだことで結界に亀裂入ったらどうするんですかっ」
これほど歪な結界だ。下手に崩すと何が起こるか分かったものではない。そう伝えると意味を理解したのか、尊は剣を背中に仕舞う。榊を持っていて良かったと、神楽は鞄から小太刀を取り出す。先祖代々伝わってきた神の胞衣から産まれたと伝わっている。本当のことかは分からないが、神楽が意志を持って鞘から抜くと、途端にただの白銀は橙や黄色に近い黄金に輝き始める。呼気を整えると、僅かな隙間に閉じ込められた神気を呼び寄せる。指先まで己が気を満たし、招来の祝詞を唱え謳う。尊の身体がそれに反応するように、漆黒を思う黒い神が海の青に変色し、瞳は深い黒に変わっていく。
「…………こんな瘴気、…初めてだ…」
「尊しか応えてくれない…」
呟く言葉に尊は素戔嗚の姿で周囲を見渡す。
「夜と黒だった」
「そうですか…どういう意味でしょうね…」
その言葉に詰まっている言葉は本来多い筈である。神楽はとりあえず頭の中でそれをしまい。とりあえず学校へ行くために鳥居を抜けていく。鳥居を全部抜けた辺りで尊の姿はスッと消えていく。神楽以外にはもう尊を認識出来るのは御霊か、神気を持つ生き物だけだ。胸に押しかかる感覚は一歩。一歩と歩くほどに大きくなる錯覚を覚える。嫌な、ーー予感が的中したと思ったのは結界へと踏み込んだ瞬間だった。
人の視界にはけして映らない結界。それは霊道と霊道が交差している場所。霊道とは字の如く霊達が歩いている道である。その先にあるのは何処か人の身ではわからない。ただ、この踏み込んだ場所は、以前から気になる霊道が通っている場所でもあった。
「螺子れている…出ますよ」
「ほっとくわけにはいかねぇだろ」
「今の天気見えてますか? …曇りですよ」
「じゃ、こうすればいい」
「ちょっ…!」
神楽が止めるより先に、尊は背中から一振りの剣を取り出す。普段は胎内収納しているらしい神の一振りである。背の低い尊を遥かに超す大振りの剣を、片手に持ち勢いよく空に向かい薙ごうと振り被った所で、神楽がその腕に抱きついた。
「何すんだよ…」
「それはこっちの台詞です。…下手に薙いだことで結界に亀裂入ったらどうするんですかっ」
これほど歪な結界だ。下手に崩すと何が起こるか分かったものではない。そう伝えると意味を理解したのか、尊は剣を背中に仕舞う。榊を持っていて良かったと、神楽は鞄から小太刀を取り出す。先祖代々伝わってきた神の胞衣から産まれたと伝わっている。本当のことかは分からないが、神楽が意志を持って鞘から抜くと、途端にただの白銀は橙や黄色に近い黄金に輝き始める。呼気を整えると、僅かな隙間に閉じ込められた神気を呼び寄せる。指先まで己が気を満たし、招来の祝詞を唱え謳う。尊の身体がそれに反応するように、漆黒を思う黒い神が海の青に変色し、瞳は深い黒に変わっていく。
「…………こんな瘴気、…初めてだ…」
「尊しか応えてくれない…」
呟く言葉に尊は素戔嗚の姿で周囲を見渡す。