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妖魔滅伝・団右衛門!

第4章 足軽退魔師団右衛門

 
 深く息を吐けば、鼓動は落ち着きを取り戻し、頭の中も冷えていく。しかし、冷えていくのは頭だけではない。色素の薄い瞳も――氷のように凍てついていた。

「お前の助けなどいらぬ。儂は、自らの手で奴を殺してくれる」

 八千代は懐から真っ黒になった札を取り出し、それを軽く振る。すると札は青い炎に包まれ、灰も残らずに消え去った。

 鬼の気配は、この国のどこにいても隣に感じる程強い。つまりそれは、どこに鬼がいても気配では察知出来ないという難点でもあるのだ。鬼が八千代に呼び掛けた事も、近くにいながら団右衛門は察知出来なかった。

 八千代は手拭いを懐にしまうと部屋を出て、団右衛門の後を追う。鬼に襲われないよう経路を下見する、団右衛門の後を。

「団さん、待ってくださいよ! 一人だけで行くなんて、ずるいです。ぼくもお役に立ちたいんですから」

「ん、遅かったな。何かあったか?」

「何もないですよ、団さんの行動が早すぎるんです」

 追いついた八千代を、団右衛門は警戒もせず受け入れる。八千代に纏う鬼の気配も、国にはびこる空気同様晴れる気配はなかった。



つづく


 

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