
妖魔滅伝・団右衛門!
第5章 悠久と団右衛門
城下町を抜けた辺りで、国を包む空気が一気に変わる。鬼の気配が消え、清浄な空気に戻ったのだ。嘉明につき纏う黒い渦も、いつまでも八千代にしがみつく影も、嘘のように消えていた。
団右衛門は退魔師とはいえ、位はただの足軽。嘉明のそばにいる事は許されず、最後尾を歩いていた。が、あまりの変わりように、思わず足を止めて後ろを振り返る。
(こうもあっさり消えるなんて、逆に不思議だな)
鬼が気配を濃くしているのは、ただ強いからだけではない。自らの把握できる範囲で、嘉明がどう動くか知るためだろうと予想していた。しかしそれならば、索敵範囲から出れば確実に分かるはずだ。分かっていながら、動かないとは考えにくい。
(奇妙な鬼だ。人を殺して心臓を取っているのに食わず、逃げるような気配を見せても追ってこない。何をしたいのか、まったく読めないな)
可能性があるとすれば、気配を絶ち油断させ、嘉明を急襲する策である。団右衛門は僅かな妖力の気配も逃さないよう注意しながら、足を進めた。
しかし、警戒は肩透かしに終わる。妖魔はおろか山賊などの危険もなく、平穏に一行は京にたどり着いたのだ。
