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妖魔滅伝・団右衛門!

第5章 悠久と団右衛門

 
(あー、それにしても勿体無ぇ!! せっかく向こうからやる気になったってのに! くそ、なんで今日出立なんだよ)

 誤魔化しながら、頭に浮かぶのは瓦解しかけた嘉明の理性だった。嘉明を懐柔させるまたとない機会、逃してはならない一回を逃してしまったのだ。嘉明は間違いなく今頃、流されそうになった自分を恥じて反省している。そして同じ事にならないよう、今まで以上に己を律するはずだ。そうなれば、嘉明を好きに抱く計画はまた一歩遠ざかってしまう。

(けど……流されてもいいくらい、オレは許されてんだよな。あいつ、オレを好きだよな)

 今日は本当に、団右衛門は約束を守るつもりだったのだ。先を求めたのは、間違いなく嘉明である。少しずつ許されている。普段の言動や表情では分かりにくいため、不意に見せる許容はなにより心を躍らせた。

「団さん、なんか悪いものでも食べました? 一人で怒ったり笑ったり、なんだか変ですよ」

「いや、思い出し笑いだ。気にするな」

 それでも八千代は怪訝そうな顔を向けるが、団右衛門の頬は緩んだまま戻らない。結局城を発つまで、団右衛門はずっとその調子だった。
 

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