
妖魔滅伝・団右衛門!
第5章 悠久と団右衛門
秀吉は主君であるが、嘉明に向ける目線はどこか軽く、温かである。気さくな態度に、団右衛門は内心驚いていた。
「いや、それにしても孫六も大身になったな。勝手に戦場に飛び出してきた頃が懐かしいわい」
「今でも秀吉様のためならば、どこへでも駆けつける心構えです」
「やめとけ、まーたおねねに叱られるぞ。おねねはお前の名を出すと、未だにあの時の事を思い出して怒り出す――」
秀吉は嘉明の成長を感慨深く噛み締めながら、嘉明の家臣達に目を向ける。しかし一人の家臣――八千代の姿を目に留めると、言葉を失い、八千代の肩を掴んだ。
「……八千代?」
「は、はい……?」
返事をしてみたものの、八千代はどうして秀吉が食い入るように自分を見つめるのかが分からない。そもそも、ただの一小姓である八千代の名をどうして知っているのかも謎だった。秀吉は八千代の頬を手に取ると、ほろりと涙を零した。
「なんと、よく似ておる」
「あ、え? 関白、さま……?」
秀吉は着物の裾で涙を拭うと、八千代の頭を撫でる。そして自らの子どもに向けるような笑みを浮かべ、口を開いた。
