
妖魔滅伝・団右衛門!
第1章 夜討ちの退魔師団右衛門
「ぼくのために、わざわざ来てくださったのですか? 申し訳ありません……でも、嬉しいです」
「それで、どうして八千代はここに?」
「それは……最近、何か嫌な予感がするので、嘉明様に危険が及ばないようお参りをしようと思いまして」
「しかし、ここは廃寺だぞ?」
「ぼくにとっては、ここが一番御利益のある寺なんです。だってここで、ぼくは嘉明様と出会えたんですから」
八千代はせわしなかった指を握り、力強く力説する。廃寺に祈る八千代の気持ちは理解できなくとも、八千代が深く廃寺を信仰しているのはよく伝わった。
「だが、行き先も告げずに出掛けるのは良くないな。出奔したのかと思ったぞ」
「そんな、まさか! ぼくは一生、嘉明様に仕える気持ちです」
「それならば、帰るぞ。客人を待たせているからな」
嘉明は八千代の手を取り、振り返る。が、そこでおかしな事に気がついた。
「……皆、どこに行った?」
見渡しても、共に来たはずの家臣が一人も見当たらなくなっていたのだ。小柄な八千代なら、伸び放題の草に紛れる可能性もある。しかし大人が隠れてしまうのは不自然である。
