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妖魔滅伝・団右衛門!

第8章 八千代の想い

 
「ぅ、ぐっ!」

 自分の体に走る痛みで、馬に取られていた意識は戻る。こんな時ですら馬を優先に考えてしまう自分を内心で嘲り、太助は死への覚悟を決めた。

(馬だけじゃない……殿、お逃げください。こやつは、鬼です)

 太助は土を引っ掻き、拙い抵抗を示す。しかしその力が弱まり、指一本動かなくなるのはすぐだった。苦痛に叫ぶ声すら奪われたまま、若い命は食らい尽くされる。しかし土だけは、太助の無念を伝えた。

 そして悠久は気付いていなかったが、土の声を感知する妖魔は、すでに志智城へ入り込んでいたのだ。

「――っ!!」

 震える土の声に木の子・一二三は飛び跳ねる程驚き、眠る嘉明を揺さぶって起こした。

「大変です、今すぐ逃げてください!」

「ん……」

 しかし目を覚ました嘉明は、一二三と面識がない。慌てる見知らぬ男に、嘉明は飛び起きると警戒し構えた。

「何者だ」

「ああ、これは失礼。私は団さんからあなたを頼まれた木の子、一二三と申します。以後お見知りおきを」

「団から?」

 嘉明は疑い、一二三を睨む。そして部屋の隅で寝ていたトラを呼び寄せると、力を抑える鈴を外した。
 

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