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タバコとシャボン玉

第4章 心

──八月


蝉の声は、どこにいても聞こえてくる。


街全体で一斉に交尾を求めて鳴く蝉は、一週間の命しかない、とても儚い生き物。でも、本当にそうだろうか。


幹子「あー、あー」


そんなに大音量で叫べば、誰だって一週間で死んでしまう。ましてや、土の中に何年も過し、地上に出て来た時にはもうヨボヨボのはずである。


幹子「あー、あー」


人間に置き換えて考えると、自分の祖父が物凄い大声で、祖母に愛の告白をしているということだ。


幹子「なー、あー」

美咲「もう、その声やめてよ余計暑いからさ」



夏休みに入ったにも関わらず、私と幹子は学校に来ていた。理由は、幹子に誘われたからである。

幹子「だって、暑くて死にそうなんだもーん」


だいたい、なんでこんな暑い日にわざわざ学校の体育館という、言わば蒸し風呂に来る必要があるのだろうか。


美咲「だったら来なきゃいいじゃんこんなところ」

幹子「うーだってー」


全く女という生き物はと、自分でもたまに嫌になる時がある。

美咲「全くもう」

少しでもこの苛立ちと、暑さから解放されるため、別のことを考えながら、体育館二階の観戦通路で、バスケの試合を見ていた。


手すりに乗り出し、手の甲に顎を乗せ、暑さに耐えながら、ダムダムというボールの音、靴がキュッとなる音などを聞き、試合なんて全くみていなかった。


幹子はと言えば、すでに限界というように、両手で手すりを掴みながらしゃがみこんでいた。そして、蝉よりも疎ましい低音を発していた。


ただ、目はずっと、頑張っている選手達を捉えていた。


あまりの暑さで、反対側の観戦通路がぼやけているように見えた。

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