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20年 あなたと歩いた時間

第8章 24歳

「ママ!お花見行こうよ」

翌朝、広輝は起きてくるなりそう言った。

「今お弁当作ってるから。ゆいちゃんと一緒に行こうね」
「やったー!公園!」

広輝はお花見と言えば、
大好きな公園に行けるのがうれしいのだ。
休日はほぼ一日、公園で過ごすことも
珍しくない。

「よし!出発!」

こんなときだけは、自分で着替えをし、
早々と玄関で待っている。
自転車の後ろに広輝を乗せて、
ペダルを踏むと暖かい風がぬけていく。

「ママ、スピード出して!」
「よーし、出すぞー!」
「わー!」

公園に着き、辺りを見渡したが
ゆいちゃんとママはまだのようだ。
広輝はひとり砂場で遊び始めた。
その姿を少し離れて見守る。
桜は満開で、何組もの家族やカップルが
レジャーシートを広げてくつろいでいた。

「のぞみちゃーん!ごめんごめん、お待たせ!」
「大丈夫。さっき来たとこだよ。広輝、遊んでるよ。ゆいちゃんも行っておいで」
「うん!」

ゆいちゃんとママの奈緒美ちゃんが
自転車でやってきた。
奈緒美ちゃんは私より六歳年上だが、
そんなことは微塵も感じない。

「ゆいが喜んじゃって、昨日なかなか寝付かなくて。広輝くんのこと大好きだから」
「うちもだよ。ゆいちゃんゆいちゃんって、最近はママ大好きって言ってくれないもん」
「あははは、ジェラシーだね」

奈緒美ちゃんは、カラッと笑って
私の隣に腰を下ろした。
お弁当が入ったバッグは自転車のかごに
入れたままだ。

「休み、欲しいよねー」
「奈緒美ちゃん、夜勤あるもんね」
「そうだよー。でも夜勤しないと生活厳しいからねー」

夜勤のある日はゆいちゃんを
認可外保育園に預けている。
私も去年一年はそうして病棟で夜勤も
こなしていた。
でも、やはり夜中に一緒に
いてやれないのは広輝がかわいそうだし
何より自分がさみしかった。
だから思いきって外来に異動の希望を
出したのだ。
卒業後五年は今の大学病院で
働かなければならない。
奨学金の半分が免除になるからだ。

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