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20年 あなたと歩いた時間

第8章 24歳

車は市内から山に向かって走り出す。
窓を開けると、緑の独特な匂いが
鼻をくすぐる。私達が育った街は、
山も海も近い場所にある。

「このあたり、だいぶ新築の家ができたね」
「…全部潰れたからな」
「うん…」

四年前の地震で、地滑りが起こってここでも
犠牲者がでた。ここだけではなく、
そこらじゅうが信じられないような
被害を受けたのだ。

「広輝、大丈夫か?」
「寝ちゃってるよ」

心地よい揺れに、いつの間にか広輝は
眠っていた。

「到着…っと、広輝はおれが抱っこするから、のぞみ、トランクの荷物頼む」
「うん。…あ、お花と…これ?」

私は、あふれんばかりのバラや
ガーベラ、カスミソウの花束と
おそらくアイスクリームの入った
クーラーボックスを肩に掛けた。

「まじで重いな、広輝」
「でしょ?」

車を降りて、もう少し石の階段を上がると、
見晴らしのよい平らな場所にでる。
街を見下ろす、風が吹き抜けるところに
今、真緒は眠っている。

「真緒。来たよ。お誕生日おめでとう」

私達は、手を合わせそれぞれ真緒に
語りかけた。
真緒。久しぶり。今日もいい天気だね。
広輝はもうすぐ四歳になるよ。
私、看護師の仕事にもだいぶ慣れてきた。
広輝と二人の生活も楽しいよ。
…でも時々、真緒の夢を見るの。
いつも、決まってるの。
私達まだ中学生で、真緒が突然髪を
切った日のこと。
要のことが好きって言った真緒の横顔。
何でかな、その場面を何度も見るの…

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