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20年 あなたと歩いた時間

第8章 24歳

そっと目を開けて隣にいる要を見ると、
要は広輝を抱いたまま、
静かに涙を流していた。
細かく肩を震わせて。
おそらくここでしか、要は泣くことが
できないのだろう。

「…だめだよな。まだ、慣れない」

空を見上げて、それだけ言った要は
もう、私の知っている要ではなかった。支えを失って、立っているのがやっとの
弱々しい要だった。

「いつまで…こんな気持ちで生きていくんだろ…いつまでも、この場所から動くことが…できないのかな…」
「要…」
「毎日…子ども相手に笑ってるのがつらいんだ…薄れるどころか、毎年この日が来るたびに、何で…何で真緒だったんだって。毎年一緒に祝ってたのにって…」
「多分、ずっとだよ。私達」
「ずっと…?」
「ずっと、ずっと、思い出にもならなくて、忘れることもできなくて、ずっとずっと二十歳のままの流星と真緒が、私達の心の中にいるんだよ」
「ああ…」

私は要から広輝を受け取った。
要は真緒が眠るその場所に崩れて
泣いた。

「まお…?」

目を覚ました広輝がつぶやいた。
去年はこの場所に来ても、
きょとんとしていた広輝が、
いきなりまお、と言った。

「…そうだよ、真緒だよ。ママと要の大切な友達」
「友達…ゆいちゃん」
「そう。ゆいちゃんは広輝の友達」

いつか、ちゃんと話さなければならない。
流星のことも、真緒のことも、
あの地震のことも。

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