20年 あなたと歩いた時間
第8章 24歳
「なあ、のぞみ」
「ん?」
私は広輝を下ろして、花を飾った。
真緒によく似合った、ガーベラ。
そして似合う女性になったであろう、
真っ赤なバラ。
「…帰ってこいよ。一緒に、流星と真緒のこと話さないか」
「要…」
「いや、深い意味はなくて、おれと同じくらい真緒のこと大切に思ってるのぞみなら、泣いてるとこ見られてもいいかな、って」
要は真緒のほうを向いて言った。
「…私は泣かないよ」
「そうなのか…?」
要は少し驚いたように言った。
私には、流星がいなくなっても広輝がいた。
でも、要には真緒とつながっていられる
誰かがいない。真緒の弟たちとは
時々会っているようだが、
それとは少し違う。
私は、流星がいなくなってから、
ずっと泣いていた。
だんだんと大きくなっていくお腹を抱えて、
毎日泣いていた。
赤ちゃんによくないとわかっていながら、
本当に毎日泣いていた。
あなたが産まれるまで、泣くのを許してね、
あなたに会ったらもう絶対に泣かないから。
そう言うと、ぴくっと小さい魚が
跳ねるように、小さな小さな広輝が
お腹の中で動いたのだ。
「泣いても、流星は戻ってこないもん」
いつも自分に言い聞かせている言葉だ。
私には広輝がいる。
流星の分身である、広輝が。