秘密の兄妹
第1章 冷たいお兄ちゃん
お兄ちゃんは階段を下りている途中で、私の存在に気づき足を止める。
「…あっ…おはよう、お兄ちゃん。」
「…………。」
お兄ちゃんは私に返事を返さず、そのまま階段を下りると洗面所に向かっていった。
……何で無視されてるのか分からない……
少し沈んだ気持ちで食事を続ける。
お兄ちゃんは、高校生になってから背も延びてぐんと大人っぽくなった。
女の子からもかなりモテていて、私の友達からもよく手紙を渡すように頼まれたり、携帯のアドレスを教えてほしいとお願いされたりする。
お兄ちゃんは嫌がるからそういうのは全部、丁寧に断ってるけど……
お兄ちゃんって彼女とかいるのかな……
…私、お兄ちゃんのこと何も知らない…
「…紫織」
お兄ちゃんのことを考えながら食事をしていると、洗面所のドアから顔を出したお兄ちゃんが私に話しかけてきた。
「なに?」
「…俺の歯みがき粉きれてる。予備のない…?」
「ちょっと待って。」
私はリビングのクローゼットを開けて、洗面所用品の買い置きを入れてある棚のケースに手を伸ばして、お兄ちゃんがいつも使っている歯みがき粉を取り出した。
洗面所にいるお兄ちゃんにそれを渡す。
「はい、これだよね?」
「……うん。」
「…あの…お兄ちゃん、明日って早く帰ってくる?」
「…なんで?」
明日はお父さんとお母さんの結婚記念日だから、もしかしたら2人とも家に戻ってきてくれるかもしれない……
もし、戻ってきてくれなかったら一人じゃさすがに寂しすぎる。
いつもお兄ちゃん、帰り遅いし……明日くらいは一緒にいてほしい…。
「……紫織、期待するだけ無駄だ……。」
お兄ちゃんの言葉が突き刺さって私は涙目になる。
「…お兄ちゃん…私たちって捨てられたの?」
「…………。」
「お兄ちゃんも私なんかいらない?」
「…お前、朝からうざい……。」
……うざい…か……。
「…お兄ちゃん、朝食作ってあるからちゃんと食べてね。私、お兄ちゃんの邪魔にならないようにもう学校行くから。」
私はリビングのソファーにあるカバンを持つと、食べかけの朝食を残したまま急いで家を出た。