
白衣と天使
第6章 six
〜数年後。
この街には、これといって何もない。
だからこそ、魅力的で独特であると思う。
いつもの道を、自転車で駆け抜けていく。
緑の木々が生い茂っていて、コンクリートで仕切られた車道の向こう側には、青い海が広がっている。
風が、俺の着ている白衣の裾を揺らして、
心地いい涼しさを運んできてくれる。
都会の病院で働いていた時よりも、
余裕ができたと思う。
お金や、地位は、確かに前より遥かにない。
ただ、仕事仕事と、休みの日さえ何をしたらいいのかわからないほどに、
自分というものと向き合えていなかったあの時に比べれば、
何倍も毎日が楽しい。
安「しーんちゃーん!!おかえりなさぁーい!」
気づけばもう、自宅兼仕事場である、小さな診療所に到着していて、
中から出てきたヤスが、一生懸命に手を全力で振っている。
そう、病状が悪化したあの日、
俺は死に物狂いで、ヤスの病気と闘った。
元々原因不明の病だったため、起こった発作の応急処置と言った方が正しいのかもしれないが、
それがなんとか成功して、
一週間眠り続けたヤスは、無事目を覚まし、みるみると回復していった。
数年経った今、医学も進歩して、
ヤスの病気に対する薬も開発された。
まだ、全快とまではいかないけれど、
外に出ることを許されるようになったヤスを、俺が空気の綺麗な自然多きこの街に連れてきた。
そして、ヤスのことは俺が絶対に守るからと約束したのだ。
それは、医者としても、男としても。
安「どうやった?りかちゃん大丈夫やった?」
雛「おぉ。ただの風邪やわ。1日、2日、横になってたらよぉなるやろ。お前がえらい大袈裟に電話してくるから、びっくりしたのに。」
安「だって、買い物帰りにしゃがみ込んではぁはぁ言うとるちっさい女の子見つけたら、そら、焦るよ〜。でも、良くなるんやったらよかった。」
にっこりと笑ったヤスの笑顔に、また今日も癒されている。
ヤスと一緒に診療所の中へと入っていく。
『今日の晩ご飯はなぁ〜?』なんて、楽しそうに話すヤスを見ながら、
あぁ、幸せってこういうことなんやな。と確かに感じていた。
大切な人と過ごすこの何気ない日々を、俺は俺の為にも守っていきたいと思う。
