
言葉で聞かせて
第13章 言葉で聞かせて
俺の視線に気がついたのか、三崎さんが咳払いをした
「んん……とにかく、悠史が昨日退職届なんか出して来た理由を聞きたいんだ」
「聞いてないんすか?」
「あぁ。聞いてもなにも答えなかった」
「……」
この人たちは店の店長とオーナーで、迷惑はかけられない
それに知ったところで特にしてもらえるようなことは見当たらない
だから話すのはやめよう
そんな話し合いが悠史とあったのはつい数日前だ
それで馬鹿正直に辞める時でさえ事情を話さなかったのか?
アホ
心の中で悪態をついてみたが、実際は人に言ってもいいことなのかと心の中は不安で満ちている
もし本当に、悠史が女の方がいいって考えだったら
俺のしていることは邪魔でしかない
「……」
「敦史?」
黙ったままの俺の名前を佐伯さんが呼ぶ
三崎さんは吸っていたタバコを灰皿に押し付けて背もたれに寄りかかった
「……言いたくなければ、言わなくてもいい。お前らのプライベートなことにまで俺は干渉しない」
「昨日あんなに気にしてたのに?」
「お前は黙ってろ」
三崎さんが話しているところにふざけて入った佐伯さんがしゅん、と項垂れる
「でもな、敦史。俺たちが力になってやれることは全部力になってやる。お前らがここに入る時に約束しただろ?」
