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言葉で聞かせて

第13章 言葉で聞かせて

悠史視点


お店にまでエリカさんが来たのが数日前
更に敦史に家を出ると告げたのも同じ日

その後すぐに引っ越しの準備をして
店長とオーナーの反対を押し切って退職届を提出して

出発する日、敦史にだけそのことを伝えた



「…………今日、出るから」


敦史は何も言ってくれなかった

当然だと思う
もし逆の立場だったらきっと僕も敦史を無視くらいしただろうから

でも、やっぱり辛いものは辛い

今までずっと一緒にいた敦史に冷たくされるのも
最愛の千秋さんに嘘をつき続けるのも


2人とも寝静まった夜中に、1人静かに家を出る


「……っ」


敦史の部屋の前
このドアの向こう側で、敦史と千秋さんが寝てる


嘘だよ
僕は千秋さんが好きだよ
ずっと一緒だよって
言いたい

それに

敦史に謝りたい


殴られた頬は痛いけど、痛くない

僕を殴った敦史の手と心の方がずっと痛いって
わかってるから


ごめんなさい

でも、こうする以外で2人を守る手段が僕には見つからないんだ
僕1人で2人を救えるなら

どうなったっていいよ


「さよなら」


荷物はもうほとんどエリカさんに預けてしまったから、小さいバッグ1つだけ持って
僕は家を出た

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