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言葉で聞かせて

第13章 言葉で聞かせて


いや、焦るな
焦ってもいいことないぞ


俺はもう一度ため息を吐いて自分に


今日の勝負はこれからだ
千秋に話すんだからな


と言い聞かせる

俺はエリカが去ってから数分して漸く動き出し、エントランスに入った


家に入ると、いつも通り飯の匂いが漂ってくる


「ただいま」


声をかけてみたが、返事は返ってこない

廊下を通ってリビングに入るとちょうど何かを焼いていたらしく、油の跳ねる軽快な音が響いていた

これのせいで俺の声が聞こえなかったのか、と納得してもう一度


「ただいま」


と声をかけると


「!!!」


台所の千秋が異様に驚いた顔でこっちを見た


なんだ?


暫く目を瞬かせた千秋は、困ったような顔をして


「お帰りなさい。すみません、驚いてしまって」


と謝ってきた


「いや、いいよ。毎度悪いな。飯作ってもらって」
「楽しいので」
「そうか。……俺ちょっとスウェットに着替えてくるわ」
「はい」


洗面所に向かいながら、俺はシャツの胸のところを強く握りしめる


あいつ多分
俺のこと悠史と間違えたんだ

顔が一緒だし、声だって別に似ていなくもない
仕方ない

けど


痛えよ


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