
言葉で聞かせて
第13章 言葉で聞かせて
何故だか急に千秋が自分の手から離れたような気がする
子供が親離れした気持ちっていうのはこういうもんなのかな
いや、違うな
千秋の気持ちが俺から離れているのを自覚するのが悲しいんだ
悠史が戻ってきた時、俺に居場所はあんのかな
「……」
「敦史さん?」
突然黙った俺を千秋が心配そうに見てくる
「なんだ?」
「ありがとうございました」
「あ?」
「色々、動いてくださったんですよね。本当にありがとうございました」
俺の手を取って両手で包み込んだ千秋が祈るように俺に礼を言うのを眺めながら
また俺の胸が針を刺したように痛んだ
「……あぁ」
千秋の言葉に、俺は一言しか返せなかった
「よし、そろそろ寝るか」
「そうですね。寝ましょう」
もう一度千秋の頭を撫でる
嬉しそうに俺の手に擦り寄ってきた千秋を立ち上がらせて、俺たちは寝室に向かった
「電気消すぞ」
「はい」
千秋を先にベッドに入らせて、俺は電気を消してからベッドに向かう
寒くなってきて分厚くした布団のなかに潜ると千秋が少しだけ俺の方に寄った
「おやすみなさい、敦史さん」
「おやすみ」
