
言葉で聞かせて
第13章 言葉で聞かせて
「それはつまり、貴方とエリカさんの結婚は政略結婚であるということですか?」
エリカさんの背中がもう一度揺れた
気にしていたのはこのことだった、ということなんだろうか
僕の質問に長野さんはイェスともノーともつかないような曖昧な返答をした
「……あくまで僕達の両親の考えはそうでした」
「貴方の考えは違った?」
少し言うのを躊躇うように見えたけれど、長野さんはエリカさんに向いてはっきりと言い切った
「えぇ」
「誠二く、ん……」
エリカさんが顔を上げた
涙で濡れて、それを手でぬぐった顔はもうぐちゃぐちゃになっていて、一分の隙も見せなかったエリカさんの化けの皮が一緒に剥がれていくように見える
「結婚の話を初めて聞いた時、僕は喜びました。何故なら僕は……幼い頃から僕に懐いて屈託のない微笑みを向けてくれるエリカさんを、ずっと前から愛していたのですから」
エリカさんの目から一度おさまったと思った涙がまた溢れてきた
「だからどんな我儘でも聞いてあげたかった。会社の社員さんとどんな関係を持っていようが結婚して同じ名字になれるならいいと思ったんです」
「せいじく……っ、ごめ、なさ……」
長野さんもたくさん悲しんでいたんだと、その時初めてわかった
