
言葉で聞かせて
第13章 言葉で聞かせて
そして立ち入った路地裏で、悠史さんが溜息をついた
「やっぱりここにもいませんね」
『こんなところに敦史さんがいることがあるんですか?』
何かのビルの非常階段があるけれど、その下にはゴミの満ちた青いポリバケツがいくつも並んでいて使われてないことがわかる
お世辞でも綺麗とは言い難い場所だ
「ここは……」
説明しようと口を開いた悠史さんの言葉が濁る
「ここは、敦史のトラウマとも言える場所なんです」
トラウマ……?
「敦史の破壊衝動が生まれたところ……です……」
「!」
僕の頭に、前に聞いた敦史さんの過去のお話が蘇った
目頭がカッ、と熱くなる
「悩むことや辛いことがあると、敦史はたまにここに来ていました」
薄汚い路地を見つめて、敦史さんの考えを少しでも悟ろうと試みる
ここで、何を考えていたんだろう
もう同じ土は踏まないっていう決意か
彼女への懺悔か
それとも、悠史さんへの……
「千秋さん、泣かないでください」
気づけば溢れていた涙を、悠史さんの手が優しく拭ってくれた
どうして離れて行ってしまったんだろう
側にいてくれれば、抱き締められたのに
僕のせいだ
涙とともに激しい後悔の念が溢れた
