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Fallen Angle

第3章 car

ビルに入ると天井まで伸びる螺旋階段を上り、ガラス張りのドアを開けると
「いらっしゃいませ」
笑顔の男に迎えられ、被っていた帽子を脱ぐと
「あれ?蓮ちゃん?一瞬気付かなかったよ。変装?」
「なにそれ」
拗ねたような表情を浮かべてみせる。
帽子とバッグを預けると、男に促されて鏡の前に座った。
ピアスを外していると鏡越しに
「最近は忙しいの?」
男はタオルを蓮の首に巻き、ケープを体に纏わせる。
「普通かな…お店自体は暇なんだけどね」
男は蓮の後ろでカラー剤の準備をしながら
「でもお店の中だと蓮ちゃんは浮いてるんだろうな…」
呟いた男の言葉を拾って
「なんで?見た目は他の女の子たちより控えめだよ?」
鏡越しに膨れっ面で反論する。
「そういう意味じゃないんだけど…」
苦笑いを浮かべる男の間に別の男が割って入り
「美人だからだよ。いつデートしてくれるの?」
「えっ?そんな約束してないよ?」
男は鏡越しに優しい笑顔を向け、髪を撫でるように触れカラー剤を塗っていく。
先にいた男は席から離れた。
「もう、悪い冗談言わないで。また嫌われちゃう。店長狙いのお客さんばっかりなのに」
「そんなの言わせておけばいいんだよ」
男は小さく笑った。
「またぁ…」
「デートしたいとは思うけど、時間がないからね」
「そう言うと思った。美容師さんって拘束時間長いよね」
「そうだね。でも僕は単純に家に帰りたくないだけだよ…」
小さく呟くと男は蓮から離れた。
目の前の分厚い女性誌を手に取り読み進めていると突然、開いたページに付箋を張られる。
走り書きで
〈この後、時間作れない?〉
鏡越しに見上げると男に目線を逸らされ、付箋を手に隠すと鏡越しに小さく頷いた。
アラーム音が鳴りシャンプーを終えて簡単に乾かすとハサミで毛先を整え、少しずつカットしていく。
「今日はネイルしないの?」
「お店で不評で…それに整えるだけなら自分でできるから」
ケープが外れブローを終えて支払いを済ませると
「ありがとうございました」
何事もなかったように外まで見送られて会釈に手を振った。
軽くなった髪を冷たい風がさらう。
駐車場まで歩いていき、自販機で缶コーヒーを2つ買って取り出して戻ろうとすると、男が白い息を吐きながら走ってきた。
「ごめん。誘ったのに…待たせちゃって…」
荒い息づかいの男に、蓮は缶コーヒーの片方を渡して笑顔を向けた。

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