恋愛妄想短編集【完】
第2章 偶然と必然 [完]
呼びかけながら扉を見たが、誰もいなかった。
おかしいなあ…気のせい?
そう考えながら、ふと先ほどベッドメイクを済ませた方を見た。
「ひゃっ!!」
「あっ…すみません、驚かせてしまって」
そこには、爽やかで顔の整った男性が、ベッドの横やらゴミ箱やらを探っていた。
びっくりした…
悪い人、ではなさそうだけど。
「こちらこそ申し訳ありません。この部屋の方ですか?」
平静を取り戻し、質問を投げかける。
「はい、忘れ物をとりにきたんですが見当たらなくて。腕時計…見てませんか?」
「腕時計ですか…すみません。覚えがないですね…」
それを聞くと、「そうですよね」と意外とあっさり返された。
そんなに大事な物ではないのだろうか?
…ってそんなはずない。
わざわざ取りに戻って来るほどなのだから。
「見つけ次第ご連絡いたします。もしかしたら、ゴミを回収した時に巻き込んでしまったかもしれないので…」
「あ、いえ、いいんです!」
「そんなわけにはいきません!お客様の大切な物をなくしてしまうなんて、あってはならないことですし!」
「本当に大丈夫なんで!気にしないでください」
本当に巻き込んでしまっていたら大問題だというのに、完全に拒まれてしまう。
そんなに軽く諦められる物を、わざわざ取りに来るだろうか…?
本当は誰かの形見とか…不安で仕方が無い!!
まだ私がなくしてしまったと決まったわけではないが、妄想がいきすぎてしまい焦り出す。
「あの、せめて回収されたゴミと、シーツに巻き込んでないかの確認だけでもさせてください!私がなくしたわけではなかったとしても、確認してみないことにはわからないですし!」
どうにかして見つけ出したいと思った。
この優しい男性の腕時計を。