恋愛妄想短編集【完】
第2章 偶然と必然 [完]
グイッ!
「うわぁ!!」
急に引かれた腕にバランスを崩され、彼の中に倒れこむ。
びっ…くりした…
なにが起こったの?
彼に腕を…?
「そんなに腕時計が気になるのでしたら、腕時計の代わりに、あなたをください」
混乱状態の私に言葉を落とす。
もう意味がわからなかった。
私で腕時計の代わりになるのかとか、まず人間の私が時計の代わりというのはおかしいんじゃないかとか、ぐるぐると頭の中で考えを巡らせる。
ろくな考えは出てこなかったけれど…
「サクラさん」
名前を呼び、さらに追い打ちをかける彼の顔を見上げると、とても優しい笑顔を私に向けていた。
ああ…
こういう人のことを綺麗と言うんだな…
男の人でもこんなに綺麗だと思える人もいるんだな…
そう冷静に思わせるほど、その時の彼はとても綺麗で、思わず見入ってしまっていた。
「私に、くれますか?」
そのひとことに、まるで魔法にでもかかったのかと思ってしまうほど、簡単に頷いてしまった。