恋愛妄想短編集【完】
第3章 涙の虜 [完]
「あーレイちゃん!おはよー」
「おはようございます…」
「ん?どうしたー?なんか元気ない?」
ちょっとおネエの入った優しい店長が心配してくれる。
気分が戻ってきたといってもやはり昔の記憶は強くて…
悪魔が来ることを安心しきれない自分がいた。
あの人ももういい大人だというのに。
「いえいえいえ!ぜんっぜん元気です!今日も頑張りますね〜」
「そう?ならいいんだけど…何かあったらすぐ言ってね?」
「はい!ありがとうございます!」
おネエ口調に慣れた今は、普通にいい店長だと思う。
喋り方に騙されるけれど、意外とイケメンだし。
そんなことを考えながら準備をし、レジに立った。
ここはあまり人通りがなく、朝早いとほとんど人は来ない。
だからしばらくぼーっとする時間が続く。
今日もそんな感じでお客さんを待っていた。
そのまま何事もなく、普通に終わるはずだった。
ピロピロピロ〜
「いらっしゃいませー」
お店に人が入ってきたことをしらせるメロディが鳴る。
そして来客を確認した私は、ぼーっとしていた頭を切り替え業務的な言葉を発した。
入ってきたのは男性で、見た目は高身長の細マッチョといったところだ。
初めて見る人だな。
顔立ちもはっきりしているし、モテそう。
さっきも言ったけれど、ここはほとんど人が通らない。
そのため、ここに通うお客さんも決まった人が多い。
だから新しい人を見かけると、なんだかそわそわしてしまう。
なんてのんきに色々考えていると、男性はまっすぐこちらへ向かってきた。
「11番を3箱」
「あっ、はい!かしこまりましたー」
男性の簡単な注文を受けてささっと動き、素早く会計まで済ませる。
そしてレジ袋に入れたタバコを男性に渡した。
「ありがとうございました!またお越しくださいませー」
会計の終わった買い物袋を受け取ると、男性は出口へと足を進めた。