
エスキス アムール
第26章 彼の邸宅
帽子とマスクをしているのに
正体がバレてしまって
『高峰』と書かれた
そのネームから目を離して
驚いて顔を上げる。
そうすると彼は、
人違いだったらごめんなさい
と、慌てた様子でこちらを見た。
「いや、間違いじゃないよ。
俺とキミ、会ったことあったっけ?」
「いえ。
お会いしたのは今日が初めてです。」
彼は、少し前に俺が受けていた
企業雑誌のインタビューを読み、
とても感動したそうだ。
「とても、尊敬してます。
こんな報道に負けないでください。」
彼の瞳は、先ほどの笑顔からは
考えられないくらい真剣なものだった。
「ありがとう」
世の中には
こういう人もいるんだよなと、
少しだけ希望が湧く。
それから、
彼の大学の話を聞いて
どんな会社に就職したいのかとか
いろんな話をした。
家に帰る頃には、
もう夕方で暗くなり始めていた。
