
エスキス アムール
第28章 バレンタインデイ キッス
さっきは、
顔を赤くしながら
あんなに嫌がっていたのに
彼は妖艶に微笑んだ。
このひと、
中に何人か入ってるんじゃ…
頑張って我慢してるっていうのに
何でこういう時に限って
キスなんかするんだよ。
普通ジョークだってわからない?
手放せなくなったらどうするんだよ。
いいの?
僕の家に波留くんを
閉じ込めても。
僕が出ていくなって行ったら
波留くんはいてくれるわけ?
ベッドに潜り込むと、彼を見つめた。
彼は、布団に被ったまま動かない。
彼の顔が見えない。
だけど、きっと寝てはいないだろう。
今どんな顔をして、
なにを考えているんだろう。
キスしてって言われただけで、
誰にでもキスをするのか?
彼の考えていることは
度々わからないことが多い。
天才の所以なのか
僕が彼のことを知らないだけなのか。
彼は男の僕にキスすることに
気持ち悪いと思わなかったのか。
彼に背を向けて、枕に顔をうずめる。
彼に気づかれないように溜息をついた。
僕のこと、好きになってくれたらいいのに。
そしたら、この家からも出ていかずに
ずっと一緒にいられるのに。
あの彼女はいいな。
波留くんに好きになってもらえて。
僕も女だったら
可能性があったかもしれない。
