
エスキス アムール
第32章 彼と実験
「…ごめんね。
でも…僕はなかなか
いい気分にさせてもらったけど」
そういう僕を彼は濡れた瞳で睨んだ。
その睨みは、
なんの意味もなしていない。
返って、煽るだけだ。
それを彼は知らないから、
タチが悪い。
「家出てけって言われたら
どうしようかと思った…」
「そんなこというわけ無いでしょ。
…波留くん契約更新いつ?」
「え?」
「マンションの」
契約更新をしないで、
もう僕の家に住めば良い。
そう思って、更新日を聞いたのだが、
そういう僕に、
彼は得意げな顔をして笑った。
その笑顔の意味が分からくて、彼を見つめる。
「もう、俺住む家ないから」
「…え?」
「更新しなかったから
もう、家はここ!」
「…へ?」
彼のニコニコして僕に頭を擦り付けた。
急に波留くんの荷物が増えたわけでもないし、
何が変わったということもなかった。
いつの間にだよ。
まったく、この人は。
こんなに僕が彼の心をつなぎ止めるのに躍起になっているっていうのに。
僕の心配は過度過ぎたのかもしれない。
少しだけ、気が抜けた。
「…早く言ってよ…」
溜息をつきながら言った僕に、
「…ダメだった…?」
申し訳なさそうに聞く彼の唇に噛み付く。
ダメな訳無いだろ。
ここに引き止めるためにどうしたらいいのか、
僕がどれほど考えたと思っているんだ。
「んっ!!んん…」
息ができなくなるほど口内を犯すと、
彼は、必死に胸を叩いて
苦しいと訴えた。
