
エスキス アムール
第33章 彼のシゴト
「…ひさし、ぶりだな。」
「………」
あれ以来、
何も話しておらず、
電話もメールも無視をしたままだ。
中学の時から
喧嘩一つしてこなかったから、こんな時、どんな会話をしていいのやら分からずに黙る。
それは向こうも同じなのか
黙ったままだった。
初めて彼との沈黙が重く感じた。
メールを無視したからだろうか。
彼は結婚が決まったばかりだった。
その時に俺の名前で不当解雇なんてされたら、誰だって気がおかしくなるのは理解できる。
別に怒っているわけではなかった。
だけど、メールをなんて返したらいいのかも、
電話に出てどうしたらいいのかも、よくわからなかった。
「ま、まあ…すわ…」
「ごめん!!!波留っ」
少し立ち上がりかけたとき、
彼の声が部屋にわんわんと響いた。
その声に驚いて、
反射的にん肩がびくりとする。
「波留が
そんなことするはずないのに…っ
ごめん!俺どうかしてた。
波留に酷いことを言ったあと
思い直して自宅に行ったんだけど
いなくて…」
要に怒鳴られたあの日、
要はいつ俺の家にきたか知らないが、俺が家に帰ったのはもう日付が変わっている時間だった。
きっと、警察に行っていて
留守だったのだろう。
それか…、あれだ。
はるかちゃんの手紙を読んで
呆然としていた時かも知れない。
あのスケッチブックを見たときは
呆然としすぎて、きっと何も聞こえていなかった。
