
エスキス アムール
第37章 彼を想ふ
「…今、好きな人いる?」
彼女が試すように彼を見つめる。
その瞳は、少し彼を誘っているようにも見えた。
彼ほどのルックスを持っていれば、学生時代だってモテたに違いない。
「…いるよ」
だけど彼は、
それに気が付くことなく、
ふにゃり
笑うと、
彼女はいないけど。と付け加えた。
それは僕も気になる話だ。
好きな人はいるけど、付き合っている人はいない。
付き合っていないのはうれしいけど、好きな人とはどこまで行っているのだろうか。
まだ気持ちすら伝えていないのか
もう、通じ合っているようなものなのか。
一瞬だけ、僕が入る隙間があるかと考えてしまった。
「そっか…」
残念そうにする彼女。
しかし、彼はやはりそんなことに少しも気が付いていない。
彼はもしかするとこういうことに鈍感なのかもしれない。
モテる男が鈍感だと、
今まで彼を好きになった人たちは相当苦しめられたことだろう。
きっと彼女も昔、彼のことが好きで今でも気になっているのだろうなと思った。
「失礼なこと聞くけど
その人って…男性…?」
「違うよ!女性だよ。
あれ、デマだからね?」
そのときはなんのことだかさっぱりわからなかったけど、
彼は必死に弁解をしていた。
ホモの気があるなら、僕も手が出しやすいけど。
なかなか彼女は僕のききたいことをべらべらと話してくれるものだ。
ホモではないと否定した彼に、少しばかり落胆する。
彼女は彼の話を聞いて、
勘違いだったんだとひどくショックを受けているようだった。
