
エスキス アムール
第37章 彼を想ふ
「もう、離れていかれるの嫌なんだよね」
彼はそう言って、何かを誤魔化すようにいたずらっ子のように笑う。
それに対して彼女は真剣で、
「もう、離れていかない。
信じるから。あなたのこと。」
なんて言って彼の手をそっと掴んだ。
ああ、この子、
ずっと引きずってたんだ。
今日は彼がいたから来てみたというより、彼がいる事を知っていてこれを言うために来たのだと
思う。
彼が大学を卒業して4年近く。
彼女といつ付き合っていつ別れたか知らないが、長い年月引きずらせる彼はさすがだと思う。
そりゃあそうだ。
僕が一瞬にして心を奪われた人なんだから。
彼は、その彼女の顔を見定めるようにジッと見つめている。
普通の男だったら、そんな可愛い元カノにそんなこと言われたら、コロッといっちゃうんじゃないの?
今日は、泊まり決定だな。
つまんないの。
彼は顔も良くて魅力的だ。
だけど、こういうシチュエーションで流される男は好きじゃない。
もうこれはハッピーエンドだ。
つまらない映画の一部を見ていしまったような気がして、
その場から離れようとしたとき、
彼は言った。
「俺が信じられない。
…もう、たくさんだ。」
