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エスキス アムール

第42章 僕のシルシ

【木更津side】





僕の機嫌は決していいものだとは言えない。
波留くんに怒っているわけでもない。

けれど、面白くないのは事実だ。



仕事を終えて帰ると、彼はソファで本を片手に持ちながら眠っていた。


明日は休みだと聞いていたから、ベッドに入らないで僕をただ待っていたのかとも思ったけど、

ベッドに入って読書をしながら僕の帰りを待っている時だってある。


今日は誕生日でも何かの記念日があるわけでもない。


態々ソファで寝落ちしてしまっているということは、僕が帰ってきて気が付くように、


つまり、何か僕に話があるということだ。

早々に風呂に入り、いつもならすぐにベッドに入るところをそうせずに、隣に座って話す時間を作った。



何もせずに二人でボーッとソファに座る。
彼は僕の隣で、どう切り出そうか思案しているようだった。



そして、ポツリポツリと話し始める。



彼は僕が怒るだろうと思ったのだろう。
その声は弱々しく、ビクビクしていていた。

もしかしたら、日本に彼を置いてこちらに来る日、彼にひ酷くしたことを思い出しているのかもしれない。


もしそうなら、可哀想だなと思ったけど、彼から紡ぎ出されるその話は決して僕にとって面白い話ではなかった。



偶然というのは重なるものだなと思う。
雇った青年が彼女を連れて来るなんて、波留くんだって思いもしなかったはずだ。

そして、彼の立場上、彼の都合で拒否することができないことも分かる。


僕が気を悪くすると思って、その日のうちに報告しようと思った彼に悪い気はしない。
可愛いと思う。


けれども内容が内容だ。
彼が彼女と再会をして、これから一緒に働いて、
特別な感情がぶり返さないことが絶対ないとは言えない。


それに関しては、彼がどんなに釈明したところで聞き入れることはできなかった。








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