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エスキス アムール

第42章 僕のシルシ






「さて、どうしようか」



僕の声に波留くんは恐る恐るこちらを見た。



「彼女と仕事をして、感情が絶対にぶり返さないなんて言い切れないよね?」

「言い切れる!
もう彼女とは終わったんだ。
これからは仕事仲間として…」

「どうだろう。
終わったなんて言い切れる?
彼女に好きだって言われたら、気持ちなんて簡単に傾くんじゃない?」


僕が冷たく言い放つと、彼は傷ついた顔をした。
心外だとでも言うように。

彼の僕への気持ちを簡単に否定されたと思ったのかもしれない。




「だって仕方ないよ。
波留くんがどんなことを彼女にしてきたのか見てきてるんだから。僕は」



彼がどんな風に彼女に気持ちを伝えたのかも、
彼女とどんな風にデートをしたのかもすべて知っている。

そして、どんな風に彼が傷ついたのかも。



「…どうやったら信じてもらえるの?」

「逆にどうやったら信じてもらえると思う?」



相変わらず僕は意地悪だなと思う。


僕の今の感情を抑えるためには、
彼女と波留くんが距離をおく事が大前提になる。


けれど、そんな事ができないのは百も承知だ。

社長の立場から考えれば、自分の都合で部下の企画を切るなんてできるはずがない。

わかってはいるはずなのに、
波留くんが相手になるとどうも整理ができなくて、
無理な事を言ってしまう。




「そんなこと、できない…っおれには…」


僕が何を言おうとしているのか分かったのか、波留くんは声を震わせながら僕に訴えた。
高峰が可哀想だと。


それは僕も同じだ。
波留くんの立場なら同じようにしただろう。

社長の立場では同情するが、恋人の立場からすれば、全く同情の余地はなかった。






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