
エスキス アムール
第42章 僕のシルシ
「高峰くんは確かに可哀想だね。
だけど、それは社長としてだよ。
恋人として、僕のことは可哀想だと思わない?」
「木更津…っ」
「話せばわかってくれると思った?
うん、確かにね。言いたいことはわかるよ。
だけど、恋人という立場で考えれば全く面白くない。
わかる?波留くん」
「……」
「波留くんの心を簡単に奪ってしまいそうな人を側に置いておいてもいいよって言えるほど、僕はお人好しじゃないんだよ」
なるべく角が立たないように穏やかな口調で言ったつもりだ。
そのおかげか、彼は怯えた表情は出さなかったけど、泣きそうな顔で僕の話を聞いていた。
「彼女はそんなつもり…」
「ないって言い切れる?」
「木更津…、お願い…っ
彼女とは二人きりにもならないし、仕事以外の話はしないから…
俺の都合でボツにさせるわけにはいかないんだよ…っ」
僕の腕をつかんで必死に波留くんは訴えた。
どうしたらいいのか、僕にもわからなかった。
波留くんを想えば、いいよと、好きなようにしなよと、言ってあげたいのに、それが出来ない。
もう、彼を手放したくない。
それが頭を支配した。
「僕もね、もうどうしたらいいのか分からない」
「…木更津…?」
「波留くんのこと、縛り付けて置けたらいいのに」
縛り付けておきたい。
けれど肉体を縛り付けることができても、心は縛り付けることが出来ない。
それがどうしようもなく、僕を苦しめた。
彼女が居なくたって、僕を不安にさせるのに、彼女が日常的に彼の側にいるようになったら、僕は毎日をどう過ごせばいいのだろうか。
