
エスキス アムール
第43章 だから言ったのに。
「俺も残業しようかな」
「あんまり、無理するなよ」
「いいんです、どうせ帰ったって一人だし。」
俺は瞳がいるし、親友の波留もいると思うからこっちに来れたけど、
知り合いもいない土地によくすぐに来たなと思う。
高峰の根性というか潔さというか、思い切りの良さには俺も見習わなきゃいけないとこがあるなと、彼を見ていて反省した。
「…あいつ、全部忘れってってるじゃん」
波留の机を見ると、携帯やら、資料やら全部置きっ放しになっている。
明日は土日で休みだ。
休みの日に目を通そうと言っていた資料まですべて忘れていた。
あいつが仕事のことを忘れるなんて珍しい。
新居見学がてら、届けてやるか。
「高峰、一度波留の家に泊まったよな」
「あ、はい」
そういった奥で、はるかちゃんがこちらを見るのがわかった。
「マンションと部屋の番号教えて」
「え…あ…俺届けましょうか?」
「いいよ。
あいつの新居もみてやんないと」
「や、でも…」
「なに?
なんかまずいことでもあんの?」
「や、あの別に」
高峰の態度は気にならないわけではなかったが、大したことではないと思っていた。
教えてもらったマンションは、結構大きいところだ。
一人暮らしにしては大きいところに住んでるなと思う。
波留は家があれば狭くてもいいという主義だし、あまりそういうところにお金をかけない。
それに今はまだ会社も軌道に乗っていないし、高いところを選ぶとも思えなかった。
「高峰、これ本当に波留のマンションだよな?」
「そうですよ」
何か違和感は感じるけど、行けば分かることだ。
ふと、奥の方に目を向けると、またはるかちゃんと目が合う。
…とりあえずひとりで行くか。
