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エスキス アムール

第43章 だから言ったのに。





「ちょっと俺、夕飯買ってきます!二人の分も買ってきますね」


どうせここでご飯でしょ?
と言うと、高峰は財布だけ持って出て行った。



あいつ、危ないな。
ここは日本じゃないんだぞ。
財布むき出しで持ってくなんて…

少しは気をつけろよ。



扉が閉まると同時に静寂が訪れる。

そういえば、はるかちゃんと二人きりで話したことなかったなと思う。


近寄って彼女の描く絵を覗くと、はるかちゃんはこちらに視線を合わせた。



「すげーな。
俺もうこういうの全然ダメ」

「いえ…」



はるかちゃんは恥ずかしいのか、顔を赤らめて少し笑った。


だけどそんな会話は正直上の空で。
波留にも聞けていないけど、初めてはるかちゃんがここを訪れてからずっと気になっていた。


彼女はまだ、波留のことが好きなのだろうか。
好きだったら…

俺ができることってたくさんあるんだけど。


でも、単刀直入に好きなの?と聞くのもデリカシーがないような気がするし、
相手は女性だということもあって、気を遣う。




「今日はいっぱいスケッチブックがあるね」


なんとかその方向に持って行こうと思うけど、出てくるのは全然違う言葉だった。


聞けば、今日は公園で絵を描いてからこちらへ来たらしい。
そういう時はスケッチブックを持ち歩くのだそうだ。


「これ、みてもいい?」


一番上にのっていたスケッチブックを指すと、はるかちゃんが笑って頷いたので、そっとページを開く。

そこには幻想的で、彼女だけの世界が広がっていた。
高峰も波留も素晴らしいという理由が見ただけでわかる。
こんな美術センスのない俺でも。



「はるかちゃんデッサンは書かないの?」



その質問に彼女は困った顔をして俯いた。

あ、デリカシーのないこと聞いたのかも。
瞳の怒った顔が浮かんで何でもないと慌ててスケッチブックを元に戻したとき、


上手くのせることができずに、積み重なっていた幾つかのスケッチブックが崩れ、

その中の一つが開いて絵が現れた。



「あ!ごめん…ね、」



その見えたひとつの絵に、一瞬固まった。








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