
エスキス アムール
第43章 だから言ったのに。
「波留…」
その絵を見て、思わず呟いてしまった。
その開かれたページに書かれていたのは、鉛筆で描かれた波留にそっくりの顔だった。
はるかちゃんは慌てて、そのスケッチブックを拾って抱きしめる。
見ないで。
そう言っているようだった。
「はるかちゃん…」
キミはまだ波留のこと…
名前を呼ぶと、彼女は俯いたまま涙を流し、そして床に崩れ落ちる。
俺のせいで泣かせてしまった。
彼女の肩に手を乗っけると、その細い身体は震えていた。
「はるかちゃん…」
「……ううっ…」
「まだ好きなんだね」
「…っ」
「…波留のこと…」
そのスケッチブックに描かれている波留は優しく笑っていた。
彼女の前ではこんな表情をしていたのだと初めて親友の新しい顔を知る。
彼女のこと、本気で大切にしていたのだと、
そして、彼女も本気で波留のことを想っていたのだと、彼女の絵を見て知った。
こうなったら、俺がくっつけてやる。
「言わないでください…っだれにも…大野さんにも…」
涙を流す彼女に、ハンカチを渡してやる。
「大丈夫だよはるかちゃん、
きっと波留もね、はるかちゃんのことが好きだから」
そう言うと、彼女は思いっきり首を振った。
なんだかんだで、はるかちゃんより俺のほうが付き合いが長いんだ。
余程のことがなければ、大体当たっているはず。
「親友の俺が言うんだから間違いない。
きっと波留ははるかちゃんを想ってるよ」
困惑した顔をするはるかちゃんをよそに、俺は決意した。
波留に話に行こう。
今日の目的は変わった。
早くヨリを戻せと言いに行くついでに、忘れ物を届けてやろう。
