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エスキス アムール

第43章 だから言ったのに。





ワインをたくさん飲んで、充分すぎるくらいに酔っていた。


帰り道、歩く横には木更津がいる。
そしてその手首には、俺と同じ時計が光っている。

とても幸せで、今すぐにでも木更津に抱きつきたかった。




「波留くん、危ないから」

「…?」


よろけた俺に彼は手を差し出す。
手を取りたかったけれど、その手を取れば抱きついてしまいそうな気がする。

ここは外だからと思えるくらいの意識はあった。



「や、やだよ。」

「誰もいないよ?真っ暗」

「むり」

「フラフラしてるのに危なくてみてられない」


彼は無理やり俺の手を取ると、
ギュッと握り締めて自分の方へと引き寄せる。

彼の手はとても暖かくてホッとした。



「あー、変な気分になりそう」

「やめろよ。変態」

「波留くん口悪い。」


人には悪態をついて変態といったものの、俺のほうが切羽詰っていた。

木更津と二人きりで久しぶりにデートをして、
世界に二つしかない、お揃いの時計をもらって。


彼にずっとドキドキしていた。
変な気分になっているのは俺の方だし、こうしている間も抱きついてキスをしたくて仕方が無い。


我慢ができなくて、少しだけ木更津の方に歩きながら寄っかかって、手を握る指に力を込めた。













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