
エスキス アムール
第43章 だから言ったのに。
「……んっ…」
彼の驚いて漏れた声が響いた。
彼の抵抗する手を壁に押さえつける。
だんだんと彼の力が抜けていき、押さえつける力を弱めると、彼の手が俺の背中に回った。
それを感じて少しだけ、唇を離す。
「……人に見られるよ…」
「誰もいないよ」
「さっきは手をつなぐのも恥ずかしがってたくせに」
「うるさい」
その唇を塞ぐように押し当てる。
彼は抵抗もなく俺の舌に自分の舌を絡めた。
「部屋、はいろう」
「もうちょっと、もうちょっとだけ…」
部屋に入る時間もなぜだか惜しかった。
今この瞬間に、彼と愛情を分かち合いたかった。
深い深いキスをして、少し離れる。
幸せを感じて涙が出そうだった。
彼がつけている時計に触れる。
すると、彼も俺がつけている時計に触れた。
木更津が俺を見つめ
俺もその瞳を見つめ
そうして、もう一度…
お互いが唇を寄せ合おうとしたとき、
ドサッ
何かが落ちる音がした。
