
エスキス アムール
第44章 木更津の思惑 *
「なんでもなくないだろ、その顔」
「……なんでもない」
「調子悪いの?」
「……なんでもない…」
「大野さん、新しい時計ですね!それ!」
「……なんでもない」
「え……」
要と高峰の言葉に適当に言葉を返して、荷物をもつと会社を出た。
もうだめだ。
眠い。
家に帰ったら少し寝よう。
それで明日、ちゃんと仕事をしよう。
そう思って、家のドアを開いたとき、身体が一瞬固まった。
靴がある。木更津が帰っている。
なんで?最近帰りは遅いはずなのに。
このまま進むべきか、会社に戻るべきか思案しているうちに、リビングの扉が開いた。
「早かったね、波留くん」
「う、うん……」
そういって、彼の横をすり抜けようとすると腕を捕まれる。
ビクリと身体を震わせ、木更津の瞳を見つめると、可哀想にこんな顔してと、呟いて僕の頬に触れた。
こんな風にしたのはお前だろ。
元気があるときなら突っ込めたけど、今は無理だった。
「ご飯食べて、寝たい……」
もう力もなくて木更津に寄りかかると、彼は俺を抱き締めて支えた。
優しい手つきに今日は寝かせてくれるのだとほっとする。
「そうだね、波留くん
ご飯を食べて……寝ようか……。」
ホッとして目をつむった俺には、彼の最後に呟いた意味深な言葉の意味を理解することができなかった。
