
エスキス アムール
第50章 甘えたい甘えられたい
「良い機会だよ。
いつまでも名字で呼ばれてもね」
「……っ」
波留くんは、どうしようと完全に混乱していた。
顔を赤くしてそんな顔されたら押し倒しちゃうよ。
その言葉は胸のうちにしまっておく。
「まだ?」
「……」
「ね、波留くん」
「……、」
「はーるくん」
「……っ、っ、」
彼女のときは何の気なしにはるかちゃんって呼んでたじゃないか。
そんなに照れるものなのかな。
不思議に思いつつも、その反応が面白くてずっと見つめていたけど、そろそろこちらからアクションをかけてみる。
「ま、いいけどね。
呼びたくないなら。呼ばなくても、別に。」
「……ぁ、……っ」
「そろそろ、寝ようかな。
明日は早いし。」
「……、ぅ……」
あはは。
泣きそうな顔してる。
こんな顔をさせるのも僕だけなのだと思うと、ひどい優越感に浸れる。
バレンタインのときに、余裕でキスしてきた人とは思えない反応だ。
キスはできるのに名前は呼べないってどういう価値観をしているのだろう。
波留くんは少し変わった価値観の持ち主だと理解はしているつもりだけど、まだあったなんて。
可笑しくて込み上げてくる笑いを押さえて寝室に向かおうとすると、波留くんが小さな声で何か呟いた。
