
エスキス アムール
第53章 矢吹は良いやつ
だから、こう言う差し入れは本当にうれしい。
社員の活力にもなるし。
矢吹も会社を立ち上げた人間だからこそわかっているようで、こうして協力してくれているのだ。
要するにお恵みというところだろうか。
「大野くん、今日も食事にいかない?」
「ああ、いいよ。行こうか」
木更津のことが頭に浮かんだけど、きっと話せばわかってくれる。
矢吹とは本当に何もないし、矢吹は木更津みたいに優しいし。
いろいろしてくれているのに、食事を断るのも申し訳ない。
木更津はこの間はきっと疲れていただけで、今日は違うだろう。
今日はご飯一緒に食べられないとメールを送ると、一度矢吹を見送り、残りの仕事を片付けた。
木更津が怒りを露わにした日の次の日の朝、彼は起きると普通になっていた。
おはようといってキスを落として微笑み、その笑顔を見た時は心底ホッとした。
涙が出そうになって顔を歪めた俺を優しく抱きしめて、うなじにキスを落としてくれた。
たったそれだけでも涙が出るくらいうれしくて。
軽いスキンシップのつもりでそこでやめようとした木更津に、唇を深く深く重ね木更津を態と煽った。
そして朝から身体を重ねた。
あの日の夜は本当に驚いて不安だったから、その行為はどうしても俺には必要だったのだ。
それに気が付いたのか、木更津が好きだと何度も何度も言ってくれて。
本当に幸せ時間だった。
もう、彼を手放したくない。
離すものか。
木更津をあんな顔にさせたくない。
木更津には分かってもらうまで説明するつもりだ。
今までだっていろんなことを乗り越えてきたんだ。
こんなことで、関係が終わることなんてあるはずない。
そう、思っていた。
